更新日 2023/09/29

コンサルタントの俯瞰力とは?

コンサルティングの世界では「俯瞰しろ!」とよく言いますが、この「俯瞰」とは何なのでしょうか?辞書には「高い場所から下を見る」や「ものごとを広い視野で見る」とあります。では高い場所から広い視野で見ればいいのか?これでは少し物足りません。

【俯ける(うつむける):下を向く】 × 【瞰(かん):みる、みおろす】

俯瞰という字は上記の2つからできています。私独自の解釈ですが、ただ高い場所から「みおろす」だけでなく、一部の重要は箇所は「うつむけでじっくり細部を観察する」かのように解像度を上げていく。つまりコンサルタントの俯瞰力とは「広く浅く全体を把握する」のではなく「広く全体を把握し、重要な部分を深掘りすること」が求められます。

それはまさに「鷹の目」と言えるかもしれません。上空から見下ろし、目的に応じて焦点を合わせる。目的は「狩り」だけでなく「水分補給」や「休息」もあるでしょう。「広く全体を把握」した上で、目的に応じて「細かく探る」。「鷹の目」はコンサルタントに欠かせない能力と言えます。

俯瞰力の構造

それでは「目のつけどころが良い!」と言われるコンサルタントの俯瞰力がどうなっているかを見ていきましょう。


❖ イシューの設定と再設定


取引先の社長から「離職率が上がって困っている」と相談をされた際、みなさんはどんなイシュー(いま考えるべきこと)を立てますか?

多くのコンサルタントは「離職率を下げるにはどうすればいいか?」という大イシューを立て、このイシューに対して筋の良い答えを探し出すための現状把握・原因分析をはじめます。「職場の雰囲気が悪くなっていないか?」「管理職のマネジメント能力が低いから?」「給与が低いから?」といった具合に。さらに従業員満足度調査の結果を踏まえて「評価・報酬制度の見直し」や「マネジメント研修の実施」といったアクションに落ちつきます。

今回のケースでは「離職率を下げるにはどうすればいいか?」というイシューは変えず、限定的な範囲で思考していくことになります。もちろんこれで成果が出ることもありますが、重要なことを見逃してしまうこともあります。

一方で「目のつけどころが良い!」と言われるコンサルタントはイシューを再設定することがあります。例えば、最初は「離職率を下げるにはどうすればいいか?」というイシューでしたが、最終的には「どのような事業に変革するか?」というイシューを立てて検討していきます。このイシューの変化(再設定)はどのように行われていったのか?その思考プロセスを見ていきましょう。


❖ 実際の思考プロセス


広く全体を把握し、重要な部分を深掘り」した上で、最終的にはイシューを再設定したい訳ですが、いきなりそれはできません。

そこでまず重要になるのは「純粋に観る」こと。バイアス(先入観や偏見)を外し、より多くの、正しい情報を得る必要があります。(具体的な方法は後述します)

今回のケースでは「離職率を下げるにはどうすればいいか?」というイシューも一旦外して考えてみることがオススメです。

 「純粋に観る」ことで得た情報はどうすればいいのか?ここでは情報を部類(種類によって区別)していくことがポイントになります。国、業界、業種、**といった形で分類していった結果、乱雑な情報が整理され「全体の把握」につながります。

※ロジカルシンキングを鍛えておくと部類の精度が上がる。

◆ざっくりと部類のできた後は、細部・暗部を観ていきます。非常に細かなところや、隠されている影の部分に注目し、情報を書きだしていきましょう。このときに、後述する「観察」の眼を磨いておくと、驚くほど新しいものが観えてきます。

◆ここまでは「全体 ⇔ 部類 ⇔ 細部・暗部」を行き来しながら全体を観てきましたが、「関連」を探してみることも有効です。

例えば「自社の業界に関連することが、他の業界で起きていないか?」といった形で考えてみても良いでしょう。その際に「過去・現在・未来」といった時間軸も行き来しながら思考してみてください。

 このように「広く全体を把握し、重要な部分を深掘りすること」でイシューの再設定が行われることがあります。

今回のケースでは最初のイシュー「離職率を下げるにはどうすればいいか?」のまま思考して「評価・報酬制度の見直し」や「マネジメント研修の実施」をしたところで、一時的に離職率が下がっても「存続の危機」からは逃れられません。そこで、イシューの再設定が必要になるのです。

以上、「目のつけどころが良い!」と言われるコンサルタントを目指して「広く全体を把握し、重要な部分を深掘りすること」でイシューを再設定していきましょう!

4つの開発ポイント

ここからはイシューを再設定するために必要な「4つの開発ポイント」について詳しく説明していきます。


❖ 自分の知識を活かす


これまで自分自身の脳に蓄えてきた知識を活かします。この時に「少しだけ知っている」というレベルではなく「具体的に細かなところまで知っている」ことが望ましいです。また、その個別事象を「抽象化して他の事象にも適用可能な状態」にしておくことが必要です。

知識(経験も含む)は業界の課題、成功事例、フレームワークといったビジネス寄りのものに限らず、政治、哲学、心理学、アートといった「一見するとビジネスに関わりそうもないもの」まで蓄えておきましょう。この膨大で質の高い知識が、「目のつけどころの良さ」に利いてきます。


❖ 他人の知識を活かす


残念ならが自分の知識には限界があります。また、同じもの・ことでも「自分と他人では見え方が違う」こともあります。そこで、他人に聞く、本やインターネットなどを駆使して「他人の知識」を集め、検討することが必要になります。(後述する「バイアスを外す」にも有効)

目のつけどころが良いコンサルタントは、異なる分野の専門家とのネットワークを持っています。自分の知らない「具体的な知識、抽象化した知識」を聞くことができる知人を作ってみてはいかがでしょうか。


❖ 観察する


観察とは、ただ見るのではなく「見極めようと見て、察する」こと。そのためのポイントを3つ紹介します。

①純粋に観る:以下のCT画像を見て、みなさんは異常を発見できますか?

このCT画像を見た放射線科医師の83%は異常を発見できませんした。これまでの経験に引きずられ、細かな部分を凝視していた為、右上にあるゴリラのイラスト=未知の異常に気づかなかったようです。これはとても恐ろしい結果ですよね。

目的や経験は効率を上げてくれる反面、バイアス(先入観や偏見)になり、重要なことの見逃しを起こしてしまいます。そこで、一旦バイアス外し、純粋に観るモードに入る、その力を高める必要があります。

では、どのように純粋に観る力を高めるのか?「目的を外し、対象を15分観察する」というトレーニングを試してみてください。対象は「花・写真・絵画」など、静止しているものがオススメです。15分じっくり観察するなかで「これまで気づいていなかった点」が見つかればGoodです!

②焦点を変えて観る:「イシューの設定と再設定」で説明しましたが「全体 ⇔ 部類 ⇔ 細部・暗部 ⇔ 関連」を行き来する=焦点を変えながら観る(考える)訓練をしていきましょう。この時は必ず図解をしながら考えてください。図解をしないと部類や関連の精度が下がるだけでなく、それによって全体や細部・暗部を観る眼すら悪くなります。

③過去と未来を観る:眼で観ることができるのは「現在」だけですが、実際の眼で観たかのように「過去や未来の情景」を脳内で観ることはできます。現在の結果はなぜ起こったのか?過去~現在までの流れをイメージすることから始めてみましょう。次に、その過去~現在までの流れの延長線の未来をイメージします。過去~現在までの流れから、どのような未来の可能性が考えられるのか?イメージを膨らませてみてください。(過去を分析すると、未来の選択肢は絞られる)

なお、脳内でイメージを膨らませた後、そのイメージを図に落としていくと解像度が高まります。感性とロジックのあいだを行き来するかのように、楽しみながら観えないものを観ていきましょう。


❖ 構造化する


自分の知識、他人の知識、観察によって得られた情報は、構造化しないとバラバラで全体を理解することはできません。そこで得られた情報を構造化していくのですが、この時に「一般的なフレームワークを使う」、「一般的なフレームワークをカスタマイズする」、「完全にオリジナルのフレームワーク作る」、といった3パターンが考えられます。

ここを鍛えたい方は、ロジカルシンキングの「ピラミッドストラクチャの練習問題」をご活用ください。
https://www.tenpei-inc.com/logicalthinking/exercises/pyramid/

目のつけどころが良いコンサルを目指して

いま見えている課題を解決しても、実は悪い方向に進んでいた。それでは高額な報酬をいただくコンサルタントとして信用を失ってしまいます。中にいては見えない、外部にいるコンサルタントだから観える視点で顧客の未来を明るく照らす。そんな頼りになるコンサルタントが増えていけば、企業も社会も、まだまだ良くなるのではないでしょうか。

また、今回は「コンサルタントの」というタイトルで書かせて頂きましたが、コンサルタントの俯瞰力は、コンサルタントに限ったものではありません。「フレームワークを覚えたけどイマイチ良いアウトプットが出ない」という人にはぜひ身につけて頂きたい能力です。(ロジカルシンキングをトレーニング中に方にもオススメ!)