パーパス経営とは何か?

 背景:このままでは地球が持続不可能です

わたしが就職した2007年にはすでに、企業はCSRという言葉を使い「従業員や利益の一部をつかい、社会に貢献しよう。社会的な責任を果たそう」という活動をしていました。しかし、これらは「本業とは切り離した活動」であり、例えば二酸化炭素を大量に排出している製造業が、気休め程度に「植林活動をする」といったもの。自然環境だけでなく、さまざまな環境が悪化=地球が持続不可能な状況に突き進みます。

この状況に対して国連は2015年に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択し、政府も企業も積極的にこの地球を持続可能にしていくためのアクションをとります。それによって価格勝負の食品業界において「調達コストが上がってもフェアトレードの商品を増やそう」という流れも起きるなど、各企業が本業において真剣に「持続可能性」に向きあう動きがでてきました。

しかし、企業が1番に見ているのは生産者ではなく、消費者でもなく、社会全体でもなく、株主。当時は「株主の利益を最大化すること」が企業(と経営者)が評価される最大のポイントでした。その結果、SDGsにつながるあらゆる企業活動は「株主利益の最大化につながるならOK」という判断に。SDGsすら利益のために消費されているように見えました。

 転換:ステークホルダー至上主義へ

2019年、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体 ビジネス・ラウンドテーブルが「株主至上主義からの決別、ステークホルダー至上主義への転換」を宣言。「すべてのステークホルダー(顧客、従業員、仕入先、株主、社会など)に価値提供を。企業はパーパスの実現を目指すべき」という方針が打ち出されました。

日本でも経産省が発表している伊藤レポートのなかで「社会のサステナビリティに関する課題解決を図りながら、自社固有の長期的かつ持続的な価値創造ストーリーに基づく経営を」という方針が示されます。

簡単にまとめると「このままじゃ社会が持続不可能だから、地球も会社も持続可能になるように経営を変えていこう」という話。これまでの経営と決別し、新しいサステナブルな経営に向かう時代になりました。そして「パーパス経営」という言葉が使われるようになります。

 パーパスとは何か?

では、パーパス経営のパーパス(Purpose)とは何なのか?Purposeを直訳すると「目的」です。しかし、パーパス経営という文脈においては「株主利益の最大化」といった目的はNG。目的は何でもいい訳ではありません。

「あなたの会社は、どのような事業で、どのように社会の持続可能性を高めていきますか?」これが今まさに求められていること。私はこの文脈におけるパーパスを「社会における存在意義」と意訳し、パーパスを定め、パーパスを体現していく経営を推奨しています。

実はパーパス経営という言葉が出てきた当初は「またどこかの誰かが商売のために新しい言葉を作っただけでしょ」と静観していました。しかし、しばらくして「これは誰かが商売のために作った言葉かもしれないけど、本気で推し進めたらすごいことになる!社会を変えるチャンスだ!」と思い、パーパス経営に注力するようになりました。

 パーパス経営とは何か?

企業はパーパス「社会における存在意義」を定め、その体現を目指して経営していくことがパーパス経営です。では、どのようにパーパス経営を推進していけばいいのか?やるべきことは実はとてもシンプル。①パーパス「社会における存在意義」を定める。②パーパスに基づいた事業と組織を作っていく。この2つです。

これまで経営理念を定めていなかった会社は、新たにパーパスとして経営理念を定めればいいでしょう。しかし、経営理念を定めていた会社はどうすべきか?私は新たに「パーパス・バリュー」という形で経営理念を再定義することをオススメします。

 MVVより浸透にはPVが有利

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とPV(パーパス・バリュー)の違いは2点あります。

①ミッションには「社会における」という部分が必須ではない。必須ではないが「社会における存在意義」を定義しても構いません。実際にミッションという言葉をつかって「社会における存在意義」を定義し、推進している企業もあります。正直、ここはあまり重要じゃない。

②ミッション・ビジョン、2つの言葉がわかりにくさ=浸透しにくさを生む。これは実際の事例を見てみるとわかりやすいので、ソニーの事例をご紹介します。ソニーは以前MVVを使っていました。そのときのミッション・ビジョンは以下の通りです。


■ 以前のソニーのミッション・ビジョン
・ミッション:「ユーザーの皆様に感動をもたらし、人々の好奇心を刺激する会社でありつづけること」
・ビジョン:テクノロジー・コンテンツ・サービスへの飽くなき挑戦で、ソニーだからできる、新たな『感動』の開拓者となる」


さて、みなさんがソニーの従業員になったとして、ミッションとビジョンの違いを理解できますか?言葉を覚えられますか?使い分けられますか?さらにこの2つに加えてバリューを覚える必要があります。使われない、浸透していない経営理念は体現されない。これでは経営理念を定めている意味がありません。


■ 現在のソニーのパーパス
・パーパス:クリエイティブティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。


この言葉であれば覚えられるし、使いやすいですよね。日々、コミュニケーションのなかで「クリエイティビティが足りてるか?」や「感動を作れているか?」と従業員の方々が話しているイメージがわきます。

経営理念は浸透して、体現しなければ意味がない。パーパス経営においては「PV(パーパス・バリュー)」の2つに絞って経営理念を定義し、体現していくことをオススメします。

※参考情報:チェックしておきたい企業のパーパス
ソニー:
クリエイティブティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。(天平の所感。抽象的ではあるものの、ソニーらしくパワフルな表現になっている)
味の素:アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する(天平の所感。アミノサイエンスという言葉で独自性の高さを表現できていて素晴らしい)
サイバーエージェント:新しい力とインターネットで日本の閉鎖感を打破する(天平の所感。サイバーエージェントらしくて好きです。なぜABEMAにそこまで投資するのか?このパーパスがあると納得ですね。パーパスの補足文も素晴らしいので、気になる方のためにURLを貼っておきます。https://www.cyberagent.co.jp/corporate/purpose/

トレンド・プロ:マンガ+α で世界中の「伝えたい」に革命を(天平がパーパスの策定をサポートをしました。既存サービスであるマンガ制作に+α(独自の価値)を加え「伝えたいけど伝わらない」という課題にアプローチしていきます)
オーザック:人の力で、支えるを創造し、社会を調和させる(天平がパーパスの策定をサポートしました。橋や巨大なものを支える金属製品を作っている会社が、そこで働く人と製品で、社会の調和を実現しようというチャレンジです)

 経営理念を整理しよう

経営理念界隈はにぎやかです(笑)上記で挙げた以外にもクレド(信条、行動指針)、ウェイ(遺伝子、らしさ)、フィソロフィー(哲学、指針)、などなど、様々な言葉が飛び交い、従業員からすると「なんかいろんな言葉があって覚えられないな~」という状態に…。

先日もある経営者から「あ~経営理念に入っているその言葉は一切使ってません。意味ありませんね」という発言があったぐらい。経営者が発しない言葉を、従業員が発するわけがありません。また、発しない、考えない言葉は経営の軸になっていない。つまり軸のないまま経営していることになります。

弊社は「サステナブルな人と組織をこの地球へ」というパーパスを定め、あらゆる意思決定の軸にしています。事業ポートフォリオの検討から採用要件の設定まで、細部にいたるまでパーパスをもとに判断する。この積み重ねが、独自性に磨きをかけ、社会の課題を解決し、この地球を持続可能にしていくと信じて。

以上、最後までお読みいただきありがとうございました。ビジネスパーソンの私たちにできることは、一人一人がパーパス経営を推進し、ビジネスを通して「この地球を持続可能にする」ことだと思います。パーパス経営を流行りもので終わらせるのではなく、私たちの力で経営手法の本流にしていきましょう!