パーパス経営による変革の物語

これからご紹介する物語は、パーパス経営によって会社を変革することができた物語です。わかりやすくするために架空の会社を設定していますが、ここでご紹介するいくつかの出来事は、実際に起きたこと。あなたの会社でも起こすことができるはずです。ぜひ、会社の変革の参考にしてください。

第一章 先の見えない闇のなかで…

創業20年のシステム開発会社。売上は5億円。社員数は30名。エンジニアの技術力は高くないが、創業者(現会長)のネットワークで、それなりの案件を継続的に受注できてここまで来た。しかし、競争力は年々低下。エンジニアの採用にも苦戦するようになり、今年から就任した2代目の社長は危機意識を持っている。

「会長が動いてくれるのも長くてあと5年。その先は自分たちで顧客を取らないといけない。でも、そのためのネットワークも、技術力も、独自のサービスもない。エンジニアの人件費は高騰し、新規の採用も難しい。優秀な社員は他社に引き抜かれる。そもそも、私自身がこの会社をどうしたのか?見えていない。これじゃあ社員も不安で仕方ないだろう…。私が新しいビジネスモデルを作らないといけない。でもどうやればいいのか…」と悩んでいる社長。

そんなとき、同級生の経営者からキツいけど価値のあるフィードバックをもらった。「お前の会社って、なくなっても誰も困らないよな。社員は他の会社でも働けるし、取引先も一時的には困るだろうけど、すぐ他の会社がカバーしてくれる。真剣に考えた方がいいよ。マジで…。あ、そういえば学生時代にやってたサークルのこと覚えてる?サステナブル新聞だっけ?最近パーパス経営とか注目されてるから、その方向で考えてみたら?」

第二章 プライドを捨てて一歩前へ

悔しかった。友人は起業して10年。すでに売上は100億を超え、100名近い社員がいる。業界紙でも注目のベンチャーとして取り上げられ、社員のエンゲージメントも、社会からの評価も高い。経営者としては明らかに格上だ。変なプライドは捨て、友人のアドバイス通りにパーパス経営にチャレンジしてみることにした。

これまで会社には「ミッション・ビジョン・バリュー」という経営理念があったが、あまり意識することはなかった。また、これは会長が創業2年目に作ったもので、現在のビジネスモデルとも少しずれていて違和感がある。そこで、経営理念を一から見直し「パーパス・バリュー」の2つを作った。

パーパス : 目的思考とテクノロジーの力で、製造業にエコとエネルギーを

バリュー : イシュードリブン、 コ・クリエーション、 エコシステム・マイスター

会社の歴史を振返ってみると様々なシステム開発を行ってきたが、実は製造業に関するものも多く、工場の省電力化や廃棄を減らす生産管理システムの開発など「エコ」に関わるノウハウが蓄積されていた。また、社長である私は学生時代から「サステナブル(持続可能性)」に関心が高く、資源の枯渇という社会課題をどうにかしたいと強く思ってきた。その思いを形にしたのがこのパーパス。そしてパーパスを体現するために核となる価値観をバリューとして3つ定義した。

第三章 理念浸透に試行錯誤

「このパーパスは社員に受け入れられるだろうか?」不安に思いながらも会社の歴史、蓄積してきたノウハウ、社会の課題、社長自身の価値観や問題意識などをストーリー仕立てで社員に伝えた。すると社員からは「めちゃくちゃ共感しました。今はまだ何屋かわからない弱小システム会社ですけど、このパーパスを叶えて一目置かれる会社にしていきたいですね」という嬉しい声をもらった。

しかし、そんな好反応を示してくれるのは一部の社員で、大多数はポカーンと聞いていただけである。ここで畳みかけないと以前の経営理念のように形骸化してしまう。そこで間髪入れずに様々な施策を行った。

パーパス&バリューを会議室に掲示し、会議の最初に確認し、会議の最後に「どのバリューを体現できたか?」をふり返る時間を設けた。さらに、それぞれのバリューを表したオリジナルキャラクターを作成。LINEスタンプも作り、楽しみながらバリューを意識できるようにした。また、評価制度も一新し、目先の数字を上げることより、バリューを体現している人(未来の数字をつくる人)を高く評価するようにした。

ちなみにこのタイミングで退職者が数名出た。そのうちの1人はエンジニアとして優秀な人で大きな痛手となったが、必要な退職だった。それはパーパス&バリューに共感していなかったからだ。できることなら一緒に働いていきたいが、目指す方向が異なるなら、別れた方がお互いに幸せになれる。振返ってみると、良い退職だったと思う。

第四章 待ちに待った変革期へ

社内ではバリューが共通言語になり、一体感が少しずつ醸成されてきた。さらにエコシステムの専門性が高まり、顧客からのブランドイメージが変化。問い合わせも増え、売上と利益も拡大。エンジニアの技術力も定着率も上がり「いい感じに会社が変わってきたな」と思っていたとき、社員から鋭い指摘が入った。

「社長。エコシステムの受託開発はSDGsの追い風もあり、開発予算のある大手には順調です。でも、中小企業はどうでしょうか。パーパスでは『製造業にエコとエネルギーを』と打ち出していますが、まだまだ中小企業にはエコもエネルギー(元気)も提供できていません。中小の製造業も利用できるような汎用的なシステム開発をやりませんか?」

社長である私はこの言葉を待っていた。これまで受け身だった社員から「これをやりたい」という一言を。しかもそれが会社のパーパスと一致したものであることを。

受託開発メインだった会社が、自社開発を軌道に乗せるのは簡単ではない。しかし、どんなに高い壁であろうとも「一体感のあるチームであれば乗り越えられる」と確信している。数年前に「私が新しいビジネスモデルを作らないといけない。でもどうやればいいのか… 」と悩み、自信のない表情をしていた私はもうここにはいない。

おわりに

パーパスがあれば会社が変わる訳ではない。しかし「どう会社を変えるのか?」その軸となるものがあれば、変革を進めやすくなる。「このままではビジネスモデルの限界だ」そう問題意識を持っている経営者は、パーパスによる変革を狙ってもいいかもしれません。