パーパス経営に合うビジネスモデル

パーパス策定後に多くの経営者が頭を悩ませること。それは「これをどうやって体現するのか?」です。既存のビジネスモデルを大きく転換する必要がある。でもどうすればいいのかわからない。そんな時に、以下のビジネスモデルを参考にしてみてください。

パーパス経営では、あらゆるステークホルダーと関わり、それぞれ利益を出していくことが求められます。では誰とどのように関わればいいのか?1つのヒントにしてください。

調和型ビジネスモデル(教育版)

セキュリティの業界を例にして考えてみましょう。セキュリティ製品を開発・販売しているA社。業界的には顧客企業と直取引することもあれば、専門商社を通して取引することもあるのが普通。しかし、A者は基本的に顧客と直取引はしません。それはなぜでしょうか?

専門商社はセキュリティ製品 “も” 扱いますが、他の製品も扱っています。当然セキュリティ製品のプロではありません。顧客も同様です。セキュリティ製品を専門商社から買いますが、本当に何が必要なのか?わかっていないケースが多い。さらに、購入後に正しく使いこなせないケースも多発。その結果「脅威から身を守れない」事態が発生します。これでは製品の評判は上がりません。すると、専門商社も積極的に売ろうとしない。この結果「怖いから仕方なく導入しよう」というレベルから脱することはありません。

これではセキュリティ製品を開発・販売しているA社のビジネスはうまくいきません。そこでA社はまず「世の中にどのような脅威があるのか?その結果、会社にどのような損失が生まれるのか?」を顧客企業に教える「①啓蒙活動」を行います。業界レポートの作成、セミナー、広告など、その内容は多岐にわたります。

さらに、顧客企業に直接足を運び、セキュリティ対策の「②コンサルティング」を行う。ここまでくると「A社のセキュリティ製品を導入しよう」という企業が増えてきます。そこでA社が顧客に伝えることは「出入りの専門商社さんを通して発注してください」です。

直取引した方が利益率は良いのになぜ?それは専門商社を通すことで、専門商社に「間接的教育」をする狙いがあります。「今この脅威に対して、このセキュリティ製品が売れる」とわかれば、実際に受注した顧客のケースから学び(知識アップ)、他の顧客に拡販するモチベーションも上がります。(さらにA社はアフターフォローもきめ細やかなので、顧客からの評判がよく、さらなる拡販意識の向上につながる)

営業力は専門商社に叶わない。これはどの業界でもあるのではないでしょうか。さらに、複数の専門商社の営業力を活かすことができれば「自社で営業をするより圧倒的に多くの会社に営業をすることができる」のです。

「**で安全な社会を」というパーパスを掲げるA社は、パーパスを体現するためには専門商社の力が欠かせない。そこで、このビジネスモデルにたどり着いたようです。

部分特化型メーカーであるA社と、専門商社と、顧客。すべてのステークホルダーが Win Win Win になる調和型ビジネスモデル(教育版)。みなさんの業界でも活かせるのではないでしょうか?

調和型ビジネスモデル(集積版)

食品業界を例にして考えていましょう。スーパーマーケットに並ぶ食料品を開発・販売しているA社。これまでは単独で原料を買付けしていましたが、大手食品メーカーや商社の購買力に負け、良い条件で買付けができなく困っています。そこでA社は生き残りのために策を打ちます。

同様の悩みを持った中小の食品メーカーに声をかけ、共同で「①原料の調達」を始めました。さらにここでの成功体験をきっかけに「②新製品の開発」「③生産の協力」「④物流の効率化」まで力を併せていきます。

1社では不安定・低品質・非効率だったものが、集結することで安定化・高品質化・効率化がなされるようになります。しかし、経営は別。それぞれの会社が独自性を活かし、食品メーカーの多様性が失われることはありません。(食文化の継承に有効)

規模の力が有利な業界では、中小企業は淘汰されていきます。その結果、全国のスーパーマーケットに並ぶ食料品が「数社の大企業に独占された状態」になったとき、消費者は幸せでしょうか?全国どのスーパーマーケットに行っても「同じ商品が並んでいる」のは幸せでしょうか?

A社のパーパスは「**で食文化を守り、笑顔あふれる食卓を未来に」です。パーパスを体現するためには「競合ともいえる相手と手を組む」。こういった選択肢があることも知っておくとよさそうです。

ちなみに地球の歴史を振り返ってみると「強者生存」ではなく「適者生存」です(恐竜は滅びた)。しかし、その時代に適したものが「何なのか?」はわからない。だからこそ「多様性」が必要だという面もあります。この地球の持続可能性を高めていこう!というパーパス経営において、多様性を守ることにもつながる調和型ビジネスモデル(集積版)の価値は大きいかもしれません。

以上、いかがでしたでしょうか?この記事がパーパス策定後にビジネスモデルを転換するヒントになれば幸いです。